環境部会の研究活動の紹介
環境部会の研究活動の紹介
サーモグラフィ
コンクリートのもたれ式擁壁は道路や宅地の斜面を補強したり、河川の護岸とし広く活用されています。しかし、近年は単に擁壁としての機能性のみではなく、安全性・経済性・施工性・景観性更には環境性と言ったさまざまな条件を兼ね備えた擁壁が求められてきています。
箱型擁壁協会では、こうした近代の擁壁工法としてあらゆる条件の要望にお応え出来るように全国会員社で専門部会を設置し、日々研究や研修会等を実施しながら、しっかりした根拠を持った提案活動を行っています。
今回は、各専門部会の中から緑化に関する研究を行っている環境部会の研究内容を紹介します。
現在、環境部会では箱型擁壁の小段に緑化を施すことによる環境的な効果を検証する研究を行っています。その中から、3項目の研究内容をご紹介致します。
まず最初に、緑化による地球温暖化の抑制効果の研究です。
コンクリート擁壁は、一般的に日中の太陽熱を蓄積し、その輻射熱により周辺の気温の上昇を助長していると考えらます。特に、夏場のコンクリート表面の温度は高い時には70℃~80℃に達すると言われています。また、一旦蓄積された太陽熱は夜もその熱を発散し、都市部ではいわゆる熱帯夜の原因のひとつにもあげられています。こうした、コンクリート擁壁が太陽熱を吸収する状態を回避する方法として、コンクリートの表面を緑化で覆ってしまう方法、つまり擁壁緑化(壁面緑化)が考えられます。環境部会では、これまでに箱型擁壁の壁面を覆うための植物としてどのような種類が適するかの研究しお客様に提案して来ましたが、今回その中でつる系の植物(ヘデラ)で壁面を覆った場合の緑化表面の温度と通常のコンクリート壁面の温度差がどの程度になるのかをサーモグラフィで確認してみました。その結果が、下記の写真です。
コンクリートと緑化の表面温度比較
現場名 : 福岡市早良区 早良高校
撮影日 : 平成24年8月3日
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現場名 : 福島県いわき市杉平地区 国道399号線
撮影年月 : 平成24年8月27日
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小動物調査
コンクリートの表面や舗装道路の白赤色の部分と青緑色の緑化の部分との表面温度差が15℃~20℃になっていることが解ります。コンクリート擁壁の緑化対策がいかに重要かを再確認しました。
二つ目の実験は、箱型擁壁は胴込材(壁体材)として単粒度砕石を使用していますが、この単粒度砕石S-40(3号砕石)前後が小動物の生息場所として生かされているかどうかの調査を実施しました。
調査は南九州から北海道まで約50ヶ所の施工現場で実施しました。その結果、30種類の生物が確認されました。
調査は箱型擁壁の設置の向き、小段の乾燥状態、調査ヶ所の小段位置、標高等さまざまな条件を踏まえた調査を行いました。結果としては、一定の環境条件下であれば箱型擁壁の単粒度砕石が小動物の生息場所として生かされていることが解りました。今後、これらの小動物の生態を調べて箱型擁壁が生物の棲息の場としてどのような形で循環されているのかをまとめて見たいと考えています。
小動物採取状況写真
植栽実験
三つ目が、今年度植栽実験中の内容の紹介です。現在、箱型擁壁協会では某大学の緑化専門の農学博士の指導の元、岡山県瀬戸内市と北海道北見市の二ヶ所に実験セットをつくり、箱型擁壁での緑化としてどのような植物が適するかの植栽実験を実施していますが、今年度の岡山県での植栽実験はこの9月に実施したばかりです。今回は、箱型擁壁の緑化は基本的に植栽後の定期的な手入れを行わないメンテナンスフリーの植栽を提案しようとしていることから、特に雑草の生えにくい植物の選定や防草対策の方法を確立するための実験を行っています。今後、約2年間雑草の状態を継続観察して最終的な提案植物と防草対策工法を確立していく方針です。
箱型擁壁協会では、今後のインフラ整備の中で単に一般的な土留め擁壁としての機能だけではなく、近年の大地震や集中豪雨による水害等においても擁壁としての機能を失わず、且つ環境との調和が図れる擁壁としての確立、また同時に今後の新しい社会整備に求められるライフサイクルコストの低減に添った擁壁を提案し続けていきます。