災害復旧における箱型擁壁の「再利用・再構築」和歌山豪雨災害復旧の取り組みについて

災害復旧における箱型擁壁の「再利用・再構築」和歌山豪雨災害復旧の取り組みについて

災害復旧における箱型擁壁の「再利用・再構築」和歌山豪雨災害復旧の取り組みについて

被災直後 復旧工事中

被災状況と採用までの経緯

「損傷のないブロックを再利用、再構築できないか」というお問い合わせを頂いたのが始まりでした。
平成23年の台風により、18年程前に県道の路側拡幅として施工された箱型擁壁が被災しました。
被災状況から推測しますと、台風による河川の氾濫により箱型擁壁の基礎となっていた河川敷が洗堀され基礎部から前に滑り落ちるように崩壊したと思われます。
延長64mのうち、下流側が崩壊しており、上流側の30m程度は持ち応えていました。
持ち応えている箱型擁壁も崩壊部との境付近では、砕石の流出とブロックの変状が見られましたが、ブロックそのものに損傷は見られませんでした。
また、崩壊部のブロックの中でも損傷が見られない物もありました。

そういった状況の中、発注者のご意向は構造的に可能であり、また中越地震での実績もあることから、「再利用・再構築」の案をベースにお手伝いさせて頂きました。

まずは箱型擁壁がトータル的に本現場に適合しているか、他工法との比較が行われました。
大型ブロック積み擁壁と補強土壁が比較案にありましたが、経済性と施工性の両面で箱型擁壁が優れている結果となりました。
特に本現場は交通量が比較的多く、道路際に民家もあり、現道を無くすことは出来ませんでした。
最大壁高さが約13mあるため、大型ブロック積み擁壁・補強土壁では、壁体幅が大きくなり、掘削により現道がなくなってしまうのに対し、箱型擁壁は控長1250mmの1種類をステップ幅の調整により安定照査を行うため、壁高さに関係なくブロックの控え長は一定であり、掘削規模が小さいため、現道を生かしたまま施工ができると判断されたことが採用の大きな要因になったと思われます。
また、経済性においても上記の通りブロックは1種類のため、㎡当り単価は一定であり、壁高さが高くなればなるほど、他工法に比べ安価となります。今回約13mの壁高さから、他工法よりも安価となりました。
また、当然ながら当初からの意向である「再利用・再構築」が可能なことも採用決定の1つです。
更には、箱型擁壁が崩壊した箇所から下流側の別構造の擁壁についても、施工性・経済性が買われ箱型擁壁で構築することになりました。


施工編

①持ち応えている箱型擁壁の全体的なチェック。
ブロック各段のステップ幅を確認。動きが見られなければ、擁壁として安定していると判断できるからです。

②崩壊部擁壁との境付近の擁壁の変状と砕石の流出が見られる箇所は、元の設置状況に戻し、健全な擁壁に復旧する。
  1.積み直し部分を選定。  
  2.ブロックの損傷状況の確認。損傷が無ければ再利用。損傷があれば無い物または新品と取り替える。  
  3.ブロックの取り外しは、上段から下段に階段状に取り外す(下図参照)。



  4.取り外した逆の順で構築。


③崩壊部はブロックの損傷の有無のチェックを行い、再利用及び新品にて構築。 撤去したブロックを1個ずつ確認した結果、4割程度が再利用可能と判断できました。再利用製品は新品との混在に際し、景観を配慮し根入れ部に使用しました。そのため、色が違うブロックは一部見える程度の仕上がりとなりました。

④水位上昇により、ステップ部の砕石が流出しない様、ステップ上にコンクリートを打設。  
お客様の声として、箱型擁壁を据付ける際、ブロックの設置面が単粒度砕石であるためレベル調整に苦戦したとお聞きしています。ただ、限られた条件の中で工夫をされており、出荷の手配が大変なくらい私が想定していた期間よりも早く構築されました。

今回のようなケースは稀なことで、想定にない基礎部の洗堀ともなれば、さすがに箱型擁壁でも崩壊せざるを得なかったのでしょう。
しかし、復旧では現場状況を活かし、岩着基礎としました。また、ステップには砕石流出防止のコンクリートを張りました。それにより以前にも増して、擁壁の機能は向上!皆様に安心して通行して頂ける道路に戻ったかと思います。(余談ですが、砕石流出防止の処理を加味しても、他工法より安価だったんです。箱型はすごい!)
「再利用・再構築」ができる擁壁は稀ですが、建設技術証明・NETISを取得し、耐震・排水性能に優れた安心・安全な多機能擁壁です。皆様、擁壁の検討の際には、「箱型擁壁」を検討案に入れて下さい。


完成後合成写真


断面図